
ミスリンがお遣いものを通して感じた幸せ、喜び、感動などを、月に一度、自身のエピソードを交えて紹介する連載「ミスリンのお遣いもの」。お遣いものにも宿るミスリンの"生きる哲学"をお伝えします。
【第6回】涼を呼ぶ、滋養に富む和菓子「紫野和久傳」のれんこん菓子 西湖
by Noriko "DAISY LIN" Maeda (ミスリン)
梅雨が明け、今年も長い酷暑を予感させる頃となりました。
今回は、夏場に涼を感じるれんこん菓子をご紹介させていただきます。
もう30年ほど前になるでしょうか。女性誌の取材の際に、編集者がくださった「紫野和久傳」のれんこん菓子 西湖。初めて頂く味わいに、それ以来、私が大好きな和菓子のひとつになりました。
おつきあいがある女性誌の編集者の方々は、皆さん、お遣いものに長けています。やはり差し上げたり頂いたり、という機会が多い方は、情報豊富で見る眼も高いのだと思います。今や、西湖はお遣いものの定番ですが、マイブームが一周回って、やはり美味しいと再評価している今日この頃です。
青々しい笹の葉に包まれ、竹籠に納められた西湖は、見るからに涼しげで、見た目からして私好みです。手に取ってみると、笹の葉の清涼な香りが上品にふわり。美しく巻かれた笹の葉を開き、ぷるんとしたれんこん菓子を口にすれば、つるりと喉越しがよく、さっぱりとした甘さが体の中に染み渡ります。
ゼリーより滋養に富み、わらび餅よりもっちりとした味わい、といえばわかりやすいかもしれません。
このお菓子なら、暑すぎて食欲がわかないときでも、容易に口にできるのです。口当たりが重くないのは、餅粉や小麦粉ではなく、蓮根からとれるでんぷんの蓮粉と上品な甘さの和三盆、2つの食材を使い丁寧に練り上げ、蒸して冷やしているから。シンプルな素材に笹の葉の清涼な香りが加わり、食欲が刺激されます。西湖はこの笹の葉の香りがよい仕事をしていると思います。

西湖を包むフレッシュな笹の葉を大量に手に入れるのは、今では大変なことかもしれません。京丹後の工房で、繊細な食感を損なわないよう、ひとつずつ手作業で2枚の笹の葉を用い、丁寧に包んでいるものづくりの誠実さにも心惹かれます。
そもそも西湖は料亭「高台寺和久傳」のお料理の結びに出されていた生菓子です。その優しい甘味と食感が評判を呼び、まだ東京におもたせの店舗がない頃は、京都でしか手に入らない、特別なお土産の代表格でした。今では、百貨店でも扱うようになり、夏だけといわず、暖房の効いた冬の室内でもひんやりと冷たい西湖を美味しく味わえます。
もちもちとしたれんこん菓子の口当たりと喉越しを苦手な方はきっといらっしゃらないのではないでしょうか。冷蔵庫で少し硬くなってしまったら、電子レンジで30秒(500w)ほど温めると、やわらかい食感が蘇ります。
蓮根には、ビタミンC、カリウム、鉄分が豊富です。しかもグルテンフリー。ナチュラルで滋味深いお菓子なので、ダイエット中でも罪悪感がありません。夏バテしやすい時期だからこそ、養生効果の高い冷たいれんこん菓子は、失敗しないお遣いものの代表だと思います。
【今回のお遣いもの】
「紫野和久傳」のれんこん菓子 西湖
創業150余年の和久傳は、京丹後にて和久屋傳右ヱ衛門が興した旅館を2代目が料理旅館として発展させてきた歴史をもつ。1982年、京都へ移転し、料亭「高台寺和久傳」として歩みを進める。「紫野和久傳」では、料亭の味をおもたせに仕立てる四季折々の総菜やお菓子を展開。れんこん菓子 西湖は、その看板商品。無添加のため、消費期限は冷蔵で3日。
おもたせ 堺町店
京都府京都市中京区堺町通御池下ル丸木材木町679
電話 075-223-3600
営業時間 1階おもたせ10時〜19時/茶菓席 13時〜17時(L.O.16時)
*ほかに、おもたせ大徳寺店、ジェイアール京都伊勢丹店、丸の内店、伊勢丹新宿店、松屋銀座店、玉川髙島屋S.C.店、松坂屋名古屋店がある。
オンラインショップ
https://shop.wakuden.kyoto
写真/れんこん菓子 西湖【竹籠】8本入り 税込4,104円、自宅用には紙箱入りも。
取材・文/武田麻衣子
撮影/Kevin Chan
構成/恩田裕子
【次回】8月下旬配信予定